コラム

2016冬 第1話「あきた白神冬の陣、楽しみ本線日本海」

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2016冬 第1話「あきた白神冬の陣、楽しみ本線日本海」

※このコラムは2016年冬頃に執筆されたものです。

のっけから、ぐいっと一杯、スミマセン。夏に続いて、またしてもあきた白神の地にやってきました。今回は真っ白な白神山地を望みながらあちこちと、もっとも“あきた白神らしさ”を味わえる冬の旅。まずは、日本海沿いに絶景の続く五能(ごのう)線で車窓を楽しみながら、あきた白神駅—川部駅間を食べて飲んでの“1日呑み鉄”と決め込み、JR東日本のジョイフルトレイン「リゾートしらかみ」に乗り込んでみた。

秋田駅から青森駅までは奥羽本線特急「つがる」ならば内陸側を走り、2時間40分ほどで 青森駅に行ける。「リゾートしらかみ」は、秋田駅を出発して奥羽本線から五能線の線路 に入り、5時間近くかけて青森駅に抜ける日本海側のルートを走る。奥羽本線と五能線の 分かれ道となるのは、秋田県側は東能代駅、青森県側は川部駅。ふたつの線路にぐるりと 囲まれているのは、世界自然遺産の白神山地だ。

 

縄文時代から連綿と続く大自然の懐を電車で走る―それは鉄っちゃん、鉄子ならずとも、 ロマンを感じずにはいられない。実際、五能線は鉄道好きにとって憧れの線なのだ。いつ もは電車で寝てしまう私も、今回は車窓の景色を楽しまなくては。電車の旅とは本来優雅 なものであるはずなのだ。では、「リゾートしらかみ」呑み鉄の旅、出発進行〜!

 

さて、ボックス席に座った途端にお弁当を広げてみる。呑み鉄とは、飲食しながら鉄道の 旅を楽しむという鉄道の楽しみ方のジャンルのひとつだそうだ。食べ鉄、撮り鉄、降り鉄、 模型鉄……鉄道への愛着の持ち方はいろいろある模様で、呼称もそれぞれ。お酒が好きな 私は“呑み鉄”派だろうと、事前にあきた白神駅前ハタハタ館の晩酌セット(税込1,100円・ 要予約)を予約した。あきた白神駅10時3分発のリゾートしらかみは、まだ朝ともいえる 時間だ。でもすぐに絶景が広がるというので早速プシュンとワンカップの蓋を開けました とも!

ハタハタの一夜干し焼きや飯寿し、いぶりがっこなどハタハタの獲れる八峰町らしい郷土料理。純米酒「白瀑」のワンカップが嬉しい(夏コラム第2話参照)。

岩館駅—大間越駅間に広がる奇岩群。五能線沿線で最も美しい景色といわれており、陸側は断崖絶壁が続く。乗客の期待を裏切らない、冬の日本海らしい風景。

車窓の風景に見とれながらの、風雪ながれ旅

あきた白神駅を出たらすぐ、絶景ポイントがやってくる。なんと、リゾートしらかみは絶 景ポイントでは電車の速度を落としてくれるのでゆっくりと見られるのがいい。でも、私 のように飲みながらカメラも構えて、携帯でも撮って……と欲張りになってしまうとすぐ に通過してしまう。約80㎞の日本海沿いの風景は、お酒を飲みながら外を眺めているとあ っという間。冬の日本海の青の深さ、雲の動き、険しい地形に圧倒され、息をのんで釘付 けになっているうちにすぐに終わってしまう。実際は2時間弱も乗っているのだが、そん なに乗っているとは思えない。

ボックス席でカメラを構える香港からの女性たち。中国旧正月のタイミングで友人を連れてやってきたリピーターは「また乗りたい!」と興奮。

日本海側の絶景以外にも、十二湖駅から陸奥岩崎駅の間にJR東日本で最も短いといわれる 長さ9.5mの仙北岩トンネルや、千畳敷駅付近の氷柱(つらら)のカーテンは、車内アナ ウンスがあるので見逃さずに!案の定、往路は酔っぱらってしまって私は氷柱のカーテン をスルーしてしまったので、これから乗車される方には往路の明るいうちにぜひ見てもら いたい。

 

日本海の風景が終わって内陸に入ると、辺り一面に雪のりんご畑が広がる。鯵ヶ沢駅から は津軽三味線の生演奏、陸奥鶴田駅からは津軽弁の語りべが乗り込んで乗客を飽きさせな い。折しも、乗車時に晴れていた天候が様変わりし、窓の外は吹雪。吹雪のなかで電車は 走る。BGMは津軽三味線の「津軽じょんがら節」。これ、旅人にとっては最高のシチュエ ーションではないだろうか?ちなみに、冬期間の津軽三味線ライブは、「リゾートしらか み」1、2号に乗車すると聴くことができる。語り部は土日と祝日、1号のみ実演がある。

冬の陸奥路は天候が変わりやすいため、五能線も状況に応じて止まるときも。この日は吹雪いたので津軽冨士といわれる岩木山は見えなかった。

津軽じょんがら節を現地で、それも車窓を楽しみながらライブで聞ける贅沢さ。独特のメロディ、素早いバチの動き、ふたりの奏者の掛け合いが見事!

そうこうしている間に、五能線の終点となる川部駅に到着した。ここで、いったんリゾー トしらかみを降車して、折り返して普通電車で五所川原駅へ向かうことに。五所川原駅で 途中下車する選択肢もあったのだが、津軽弁の語りべの話も聞きたかったので2駅ぶん乗 ったのだった。こうやって往路はイベント満載のうちに終わり、復路へ。電車に乗ってい るだけでこんなにいろんな体験ができるのも観光列車ならではで心が弾む。でも実は、 「リゾートしらかみ」は特別な観光列車ではなく生活の足として乗車する人もいる五能線 の一車両。乗車するためには指定席券510円を買う必要があるが、追加料金なしで全席オ ーシャンビューのボックス席にも座ることができる。なんとお得なシステム! 私は日帰 りの電車旅だったが、2日間五能線に乗り放題の「五能線フリーきっぷ」を買ったので五 所川原駅に移動して立佞武多(たちねぷた)の館に立ち寄ることにした。

乗車した車両は、「くまげら」。リゾートしらかみは3兄弟列車といわれ、ハイブリッドシステムの「青池」、白神山地のブナ林をイメージした「橅」がある。

立佞武多の館には、8月4日に五所川原で開催される青森三大ねぶた祭のひとつ、「立佞 武多祭り(たちねぷたまつり)」の立佞武多(灯籠の山車)が展示されている。ねぶたと いえば、横に広がった灯籠を思い出すのだが、ここ五所川原のものはタテに高くのびてい る形だ。あれ、何かに似ていると思ったら、能代の「天空の不夜城」(夏コラム第5話参 照)の城郭型灯籠とディティールは違うものの遠目に見るとそっくりだ。聞くと、高さ24 .1m、日本一の高さを誇る不夜城の「愛季(ちかすえ)」は、この立佞武多の高さ(約23 m)に負けまいと高くしたという裏話もあるとか。能代の皆さんは、どれだけ負けず嫌い なのだろう!?

勇壮な立佞武多。「ヤッテマレ!ヤッテマレ!」の灯籠をひくかけ声とともに流れるリズムや笛のメロディは、役七夕や天空の不夜城のそれにかなり似ている。

五所川原駅で青森駅から折り返してきた「リゾートしらかみ」に再乗車した。15時すぎに 五所川原を出た列車は、冬ということもあり日本海の景色に入る鯵ヶ沢駅に着く16時頃に は薄暗くなっていた。往路の酔いもすっかり覚め、もう1杯といきたいところだが能代駅 に到着してから飲みにいくことに。お酒がそれほど強くない私は、“呑み鉄”は往路だけで ちょうどよかった。よって、帰りは“旅鉄”でサンセットを楽しむ。日本海側に出ると、ち ょうど海の向こうに夕陽が落ちるのが見えるのだ。夏は、このサンセットを見るためにわ ざわざ時間をあわせて乗車する人もいるようだ。

刻々と変わるサンセットの風景をカメラに収めようと張り切るも、復路は携帯もカメラも二度目のバッテリー切れ。陽の落ちる一瞬のみ、奇跡的に撮れた。

五能線「リゾートしらかみ」に乗車した1日は本当にあっという間だった。山と日本海の 狭間にあるギリギリの際を走っていくこの路線に、わざわざ海外からも乗りに来ている人 がいるのも当然だ。この季節の、この一瞬にしかないひとときに出合える観光列車の走る 線路は、そこに暮らす人たちの日常づかいの路線でありながら、険しくも素晴らしい自然 の合間を見つけて人間が暮らしてきたことを感じさせる。まさに歴史や文化、そして人間 の住む点と点をつなぐ糸のような線路だった。

能代駅到着17時52分。呑み鉄の続きは、夜の町でまだまだ続く……。

“ 絶景を眺めて嬉しい呑み鉄タイム、上質のエンタテインメント
を味わう旅 “

 

◎テーマにちなんで、もう1軒!

産直ぶりこ

あきた白神駅前にある産直ぶりこは必見!八森、岩館漁港で獲れた魚介類の加工品や「リ
ゾートしらかみ」に持ち込むお酒の肴・手作りのお惣菜などが販売されている。写真は、
名物のハタハタ焼饅頭。秋田名物サラダ寒天も種類が豊富!

※このコラムは2016年冬頃に執筆されたものです。

朝比奈 千鶴

トラベルライター。「暮らしの延長線の旅」をテーマに活動。2016年2月、喜久水酒造(能代市)での酒造り修行を終了し、「108代醸蒸多知」の称号を得た。各地で出会った残すべき情景をモノやコトとして編集するほか、著書『Birthday Herb 』(朝日新聞出版)では薬用ハーブのある旅と暮らしのエッセイを綴っている。

2016冬 第1話「あきた白神冬の陣、楽しみ本線日本海」

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