2015夏 第4話「昭和レトロを探して、上町を闊歩」
※このコラムは2015年夏頃に執筆されたものです。
女子が喜ぶスポットがどこかにないかなと、能代の町をうろうろしていたら、能代情報の キャッチアップに敏感なH嬢から「それは、はるちゃんに会ったほうがいいですね」とア ドバイスを受けた。早速、はるちゃんこと平山はるみさんを訪ねて、市役所など官公庁の ひしめく能代のミッドタウン、上町の商店街にある平山はかり店へ。「あら〜、関東から いらしたの〜」とハキハキと明るい声で店の奥から出てきたはるちゃんは、ピカピカと後 光がさしているかのよう。気軽に“はるちゃん”と書くと、若い子のようですが、いやいや、 明治元年創業の老舗「はかり専門店」のれっきとしたマダムであります。
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はるちゃんこと平山はるみさん。店内を彩る “はかり”にちなんだ商品たち。町を見る眼差しもおもちゃ箱のような店内同様にワクワクがいっぱいだ。
ン10年前、通称「平山はかり店」こと「平山計量器店」の11代目に嫁いだはるちゃんは、 先代のおばあちゃんが亡くなったあと、はかりと宝くじ、タバコなどを売っていた店を 「はかり」をテーマにした素敵な雑貨セレクトショップにリニューアルした。はかるを漢 字にすると、「計る」、「測る」、「量る」。漢字の通り、さまざまなはかる機器や雑貨 がレトロな雰囲気の店内のあちこちにディスプレイされている。これははるちゃんディレ クションのもとたまに手伝ってくれる近所のあっちゃんがおしゃれにレイアウトしたそう だ。
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レイアウト担当のあっちゃん(左)とはるちゃん(右)。平山はかり店のブログ内あっちゃんのコーナー「あっちゃんのひとりこと!」の料理レシピコーナーは必見!
「これを見て回るといいわよ」とはるちゃんに町歩きのヒントがいっぱいの自作の地図を 渡された。手描き地図は、使っているうちに誰がどのような想いを持って書いたかが、実 際に使ってみると見えてくる。幼いころにはあったのに今は珍しくなったものでどこかノ スタルジーを感じさせるもの、そのポイントを「昭和を感じさせるレトロなところ」とし て、はるちゃんは勧めてくれた。 「能久(のうきゅう)金物店は、面白いわよ。天井からものがいっぱい下がっている荒物 屋さんで、掘り出し物があるのよ。あそこは、仲良くなると倉庫を見せてもらえるのよね。 なんと、五右衛門風呂がお茶碗を重ねたみたいにしてあるのよ」と目をきらきらさせては るちゃんがいうものだから、「ぜひ!ご一緒してください」とお願いしてみた。
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はるちゃんお手製のマップ。町を愛するはるちゃんのやわらかでちょっとユーモラスな視点でおすすめの寄り道どころを描いている。散歩前にぜひ手に入れて!
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上町だけでなく能代の町中の道幅は広い。これは、大火の教訓によるとか。もし火が出たら、隣に燃え移りにくいように道幅を広げ、区画整理をされている。
街の案内人はタイムトラベルへのストーリーテラー
「平山はかり店」とコンビニの間にある通りをはるちゃんとあっちゃんと一緒にてくてく と歩く。すると左手に創業90年の「原田洋服店」がすぐ見えた。はるちゃんは昔、ここで オーダーメイドをしてオーバーコートを作ってもらったとか。「ここね、隣の駄菓子屋さ んとつながっていて同じ店なのよ」と案内するはるちゃんに続き、駄菓子屋に入っていく と、10円ガムやチョコレート、くじを引くおかきなど、昭和に育った人ならば懐かしい駄 菓子がいっぱい。 「今の小学生も駄菓子は大好きですよ。ここはいつも子供たちがやってきて大はしゃぎし ているの」と語るお母さんのそばには、もはやアンティークとなったそろばんが。店の前 には昭和の家にはほぼあったであろう足踏みミシンが置いてある。電力なしで動くミシン。 踏み台のシーソーのような不安定さを操るのが好きだったのは私だけではないだろうな。
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もはや、レトロなものとなってしまった感のあるそろばん。昭和の子どもはそろばん塾に通っている子も多く、桁数の多い暗算はそろばんをやっている子にとってはお手のものだった。
「原田洋服店」の先に大きな日本家屋が見える。「旧竹内旅館」は、廻船問屋の邸宅を改 装した旅館でその古くて立派な様相は昭和レトロというよりも、昭和の能代を代表する木 造建築だ。現在は閉館しているというので、外からだけ見せてもらう。現在、住人がいる ので怪しい人にならないようほんのちょっとだけ。
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上町のなかでもひときわ目立つ、旧竹内旅館の外観。現在は旅館としては機能しておらず、住人がいるので、敷地内には勝手に入らないこと。
「旧竹内旅館」の角から、これもまたレトロファンにたまらない白い壁に青い「エーワン ベーカリー」の文字が見える。「商品の名前が面白いので注目してみて〜」とはるちゃん がいえば、「幼い頃からここのお菓子やパンを買っていますが、買った以上にお土産がつ いてくることもあるんですよ」とあっちゃん。中に入ってみると重厚なガラスのショウケ ースに「たまごパン」「みそパン」などの素朴で懐かしいパンが並べられている。
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ハイカラなムードが漂う「エーワンベーカリー」。店内に据えられた時を刻む大きな時計は開店当初からあり、ご主人が1日1回手で巻いている。
「ロシア」「シベリア」「マコロン」などふだん足を運ぶベーカリーでは絶対に見かける ことのないネーミングのパンもあり、どれも100円玉でおつりのくる価格だ。能代っ子に 定番の「アンドーナツ」「イチゴシャーベット」を購入し、お土産にした。
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エーワンベーカリー前でばったり知り合いと会っておしゃべりをするはるちゃんとあっちゃん。町の顔だけに、あちこちから色んな人に声をかけられていた。
能代が木都で栄えた頃、最も繁盛していた「秋木」に勤めていたというあっちゃんのおじ いさんが建てた家に立ち寄る。玄関を入ってすぐの廊下は立派な無垢材のフローリングで こなれたいい色と艶をしている。家を建てる際にあつらえたという台所と居間を仕切る木 の箪笥が素朴かつ機能的で美しい。「ターシャの庭」のように四季折々の花の咲く庭を見 せてもらったあとに自家製のシソジュースをごくり。能代のスローライフを少しだけ体感 し目も喉も潤して最後の目的地、能久金物店へ。
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散歩途中、あっちゃんの家でお手製のシソジュースと、マーマレードジャムをいただく。さすが「木都」時代に立てられた家だけあり、玄関先にも立派な木材が使われていた。
「バスステーション」交差点あたりにある能久金物店の見た目は普通の金物屋に見える。 でも、中に入ると店内に地下倉庫の入り口があったり熊よけベルがあったりと、面白そう なものが満載だ。でも、ここははるちゃんの顔利きでご主人に倉庫を見せてもらうことに。 ずいぶん奥行きのある店の裏口から裏通りに出ていったところにある倉庫の扉を開けると… ..あるある!五右衛門風呂!こんなのを未だに使っている家はあるのだろうか。「風呂釜 での利用ではなかなか出ないけど、タイルの貼ってあるイソライト式かまどはたまに出る ねえ」というご主人。イソライト式かまどは、古民家で飲食業などを開業する人に人気が あるらしい。いったいどんな風に使われているのか、買った人の家を見に行ってみたくな るのであります。
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ねらったわけではないだろうけど、どことなく昭和レトロな雰囲気を醸し出している「能久金物店」の外観。バスステーション交差点の隣にあり、目立つ。
さて、後日談。エーワンベーカリーのパンはカステラ風味のパン生地にしっかりと甘みの あるアンやジャムがこれでもかというくらいたっぷりと入っていた。渋い煎茶を一緒に味 わいたいくらい甘党にはたまらない甘さだった。シンプルさをまるで追求していないパッ ケージも個性的な愛嬌があってすぐには捨てられない。ああ、急にはるちゃん、あっちゃ んと歩いた上町商店街あたりを愛おしく思えてきた。
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「エーワンベーカリー」前にあった自転車スタンド。TとLの間には以前はEがあったのだが、いつの間にかとれてしまったという。156は昔の電話番号だ。
現代は、知らず知らずに新しいものや新基準を作って消費し、そしてまた目新しいものを 追いかけていく暮らしになっている。旅という自由な時間で、昭和レトロという懐かしい 一瞬に出会い、はっと立ち止まる。上町の商店街の人にとっての日常は、通りがかりの旅 人に昔とても大切にしていたものを教えてくれる。それぞれの時代によくも悪くもフィッ トして生きていくことは、古いものがいつの間にか視界から消えてしまうこと。はるちゃ んは、町の未来のために、町の記憶を語り継ぐ活動を行っているという。彼女は未来も過 去も行ったり来たりするストーリーテラーのようだった。ふと、温故知新の四字熟語が頭 に浮かんできた。
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町歩き前にはるちゃんとおしゃべりすることができたら、町歩きが100倍楽しくなることを保証します!
“よき語り部と町の魅力を体感し、場所の記憶を体に刻む“
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◎テーマにちなんで、もう1軒!
十八番
近隣の県からもたくさんの人が押し寄せる人気の1軒家ラーメン店。なんと週に4日、お 昼のみの営業。おかあさんたちが作るラーメンを名前を呼ばれたら取りにいくシステムは アットホーム。麺の量も並・中・大など調節できる。常連は違う種類の味の並2つをオー ダーするとか。奥の座敷で和みながら食べよう。
※このコラムは2015年夏頃に執筆されたものです。
インフォメーション
- 開館時間・開催時期
- 営業時間/11:00~14:00、 休/水曜・土曜・日曜・祝日・年末年始・お盆
- 場所・会場
- 秋田県能代市追分町2-50
- お問い合わせ先
- 0185-52—7535
マップ
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朝比奈 千鶴
トラベルライター。「暮らしの延長線の旅」をテーマに活動。2016年2月、喜久水酒造(能代市)での酒造り修行を終了し、「108代醸蒸多知」の称号を得た。各地で出会った残すべき情景をモノやコトとして編集するほか、著書『Birthday Herb 』(朝日新聞出版)では薬用ハーブのある旅と暮らしのエッセイを綴っている。
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